ブログ。

catch-img

「今日はだめだぞ。行ったらだめだぞ」「船が沈みよる。今までありがとう」。安全統括管理者、運航管理者とは? 運輸局の監査とは? 知床遊覧船事故の最終報告書が語る「事前チェック」「事後チェック」という行政システムとしての実効性。

「旅客船KAZUⅠは、船長及び甲板員1人が乗り組み、旅客24人を乗せ、知床半島西側海域を航行中、浸水し、令和4年4月23日13時26分以降短時間のうちに、同半島西側カシュニの滝沖において、沈没した。この事故により、旅客18人、船長及び甲板員が死亡し、旅客6人が行方不明となっている」

20名死亡、未だ6人行方不明という。

運輸安全委員会から最終報告書が公表されました。6人は以前として行方不明です。

報告書全文

当日


同業他社社員Dは、天気予報を見て、本事故当日の気象・海象が悪くなると思っていたので、本事故当日の朝、本船船長に対し、「今日はだめだぞ」「行ったらだめだぞ」と伝えていた。

出航時補助者は、カムイワッカの滝までの約1時間の遊覧を終えて11時30分ごろにウトロ漁港に戻ってきた KAZUⅢ船長から、だいぶ風が出てきた旨を聞き、知床半島先端の知床岬の方へ行けば行くほど気象・海象が悪化するので、本船のことが心配になり、11時47分ごろ、12時05分ごろ及び12時47分ごろの3回、本船船長の携帯電話に連絡した。しかし、電話は繋つながらず、本船船長と会話をすることができなかった。

本船に乗船中の旅客の1人と携帯電話で会話をした親族は、13時02分ごろ、当該旅客と、下船後に昼食をとる予定であることなどの会話をしたが、会話の様子からは慌てているような印象は受けず、通常の会話と変わらないと感じていた。

同業他社社員Aは、本船船長と無線で再び会話をし、「船が浸水してエンジンが止まっている。船の前の方が沈みかけている。救助してくれ」と言われたので、13時13分ごろ、海上保安庁に118番通報し、「無線で沈みそうだと言ってきた。カシュニの滝付近」と伝えた。

同業他社社員Aは、その後も本船船長と無線で会話を続け、本船船長から「いずれこの電源も使えなくなる。電気も落ちる」旨を聞き、「船に乗っている人で携帯の電波がある人がいれば、その人の携帯電話を借りてそこから直接118番にすぐ連絡した方がいい」と伝え、続けて会話をしようとしたが、これ以降、本船船長と無線で会話をすることはできなかった。

海上保安庁は、13時18分ごろ、本船に乗船中の旅客の携帯電話から「カシュニの滝近く。船首浸水沈んでいる。バッテリーだめ。エンジン使えない。乗客10人ぐらい。救助頼む」との118番通報を受けた。

本船に乗船中の旅客の1人は、13時20分ごろ、自身の携帯電話から「船が沈みよる。今までありがとう」と当該旅客の親族に伝え、また、本船に乗船中の別の旅客は、13時21分から5分間程度、自身の携帯電話で当該旅客の親族と会話をし、「海が荒れており、船首が浸水して船が沈みかかっている。浸水して足まで浸かっている。陸地まで1km ぐらいだが冷た過ぎて泳ぐことはできない。 飛び込むこともできない。救命胴衣は全員着用している」などと話した。この13時21分からの通話が、本事故調査において確認された‘本船の旅客、本船船長及び本船甲板員’(以下「本船乗船者」という。)との通信のうち、最後のものであった。

原因(事業者)

③ 旅客船 KAZUⅠが出航したのは、運航基準の定めとは異なり、気象・海象の悪化が想定される場合、出航後に気象・海象の様子を見て途中で引き返す判断をすることを前提に出航するという従前の運航方法に従ったことによるものと考えられる。
また、旅客船 KAZUⅠが、出航後、運航中止の措置をとることなく運航を継続したのは、船長が、知床半島西側海域における気象・海象の特性及び旅客船 KAZUⅠの操船への影響について必要な知識・経験を有していなかったこと、有限会社知床遊覧船の事務所には、運航管理を行い、船長の判断を支援する者がいなかったことに加え、旅客船 KAZUⅠと有限会社知床遊覧船事務所との間に有効な通信手段がなかったため、船長が、航行中に有限会社知床遊覧船の人員から情報提供や助言等の支援を受けることができなかったことによるものと考えられる。なお、旅客船 KAZUⅠが有効な通信手段を備えていなかったことについては、特別民間法人日本小型船舶検査機構が、知床半島西側海域の通話可能エリアが限られているKDDI株式会社の携帯電話を旅客船 KAZUⅠの通信設備として認めたことが関与したものと考えられる。

原因(運輸局)

④ 有限会社知床遊覧船が、前記のように安全運航に必要な知識・経験を有する人材を欠き、運航基準を遵守せず、実質的な運航管理が行われていなかったことや、船体及び通信設備等の物的施設の保守整備も不十分であったことについては、船舶の安全運航に関する知見を持たない者が安全統括管理者の立場にあり、安全管理体制が整備されていなかったことが背景にあり、その影響は重大であったものと考えられる。そして、国土交通省北海道運輸局が、令和3年に有限会社知床遊覧船社長を安全統括管理者兼運航管理者に選任した旨の届出が行われた際の審査や有限会社知床遊覧船について実施した監査において、有限会社知床遊覧船の安全管理体制の不備を把握し、改善を図ることができなかったことが、有限会社知床遊覧船が脆弱な安全管理体制のまま旅客船 KAZUⅠの運航を継続していたことに関与したものと考えられる。

事故報告書(概略説明版)

船にいたひとはすべて亡くなるか行方不明。

報告書で知れば知るほど避けることができたのではないかとしか思えない事故。

原因すべてに納得がいっていないであろうご遺族に思いを馳せつつ、精緻で忖度のない報告書により全貌が見えてきたことに敬意を表したいとも思う。

知床遊覧事故 関連トピック

https://transport-safety.jp/archives/tag/%e7%9f%a5%e5%ba%8a%e9%81%8a%e8%a6%a7%e8%88%b9%e4%ba%8b%e6%95%85