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アレは本当に社会問題なのか? 11月20日に閣議決定された令和5年度補正予算から、「国」のアレへの本気度を読み取る。

あまり「社会問題」「大問題」と意識しすぎると、誰かが解決してくれると思ってしまうので、「アレ」と言うことにしました。今回の補正予算をみて、2024年問題に対する違和感を強烈に感じたからです。

補正予算、総額2兆555億円。で、アレ関連は、いかほどか?

岸田内閣の方針が反映された補正予算。
国土交通行政は総額1兆超えとなります。物流とえいば、いまや一般の人でも知っている、例の、アレ、あの問題ですが、はたして肝いりの「緊急」とまで入った「物流革新緊急パッケージ」に、いくら国費が投入されるのでしょうか?

Ⅰ.物価高から国民生活を守る
2140億円
Ⅱ.地方・中堅・中小企業を含めた持続的賃上げ、所得向上と地方の成長を実現する
1938億円
Ⅲ.成長力の強化・高度化に資する国内投資を促進する
191億円
Ⅳ.人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変革を起動・推進する
1092億円
Ⅴ.国土強靱化、防災・減災など国民の安全・安心を確保する
1兆5195億円

おっと、アレが見当たりませんね。どこに隠れているのでしょうか。

アレは、金額順で言う4番目の「人口減少を乗り越え~」に入っています。

国土強靱化、防災・減災など国民の安全・安心を確保する
1兆5195億円
物価高から国民生活を守る
2140億円
地方・中堅・中小企業を含めた持続的賃上げ、所得向上と地方の成長を実現する
1938億円
人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変革を起動・推進する
1092億円
成長力の強化・高度化に資する国内投資を促進する
191億円

金額規模順で並び替えてみます。
ん? インフレ、災害、賃上げ より随分少ないカテゴリーですねえ・・

Ⅳ 人口減少を乗り越え、変化を力にする社会変革を起動・推進する

1092億円の内訳です。アレはどこでしょうか。

1.デジタルによる地方の活性化
322億円
2.デジタル行財政改革
65億円
3.公的セクター等の改革
104億円
4.DXの推進に関連するその他の取組
113億円
5.人手不足等に対応する制度・規制改革及び外国人材の活用
238億円
6.包摂社会の実現
250億円

で、アレはどこに入っているかというと・・5 ですね。
「人手不足当に対応する制度・規制改革及び外国人材の活用」。
金額順にするとこうなります。

デジタルによる地方の活性化
322億円
包摂社会の実現
250億円
人手不足等に対応する制度・規制改革及び外国人材の活用
238億円
DXの推進に関連するその他の取組
113億円
公的セクター等の改革
104億円
デジタル行財政改革
65億円

人手不足等に対応する制度・規制改革及び外国人材の活用

238億の内訳です。

(1)高速道路料金の大口・多頻度割引の拡充措置の延長
7,759 百万円
(2)物流の革新の実現に向けた取組
15,859 百万円
(財政投融資 20,000 百万円
(3)働き方改革の実現に向けた効率的な建設工事の促進事業
210 百万円
(4)特定技能外国人の受入促進に向けた取組の推進
18 百万円

補正予算P13より

「物流2024 年問題」の解決等のため、物流の効率化等に資する物流施設の自動化・機械化・脱炭素化、トラックドライバーの負担軽減・生産性向上、モーダルシフト推進に向けた大型コンテナ導入等への支援や、再配達半減に向けた実証事業等を実施。

どうやら、アレ関係予算は、158億+財政投融資200億、合計350億程度となる見込みです。


158億+財政投融資200億、合計350億・・・果たしてこれは、多い(本気で取り組んでいる、優先順位が高い)と言える金額でしょうか? ここ1年、連日、運輸業界を賑わしている「2024年問題」への緊急パッケージとして。

比較してみましょう。例えば・・

2024年問題 350億円 < 質の高い住宅ストック形成に関する省エネ住宅への支援 2100億円

2024年問題 350億円 < 生産性向上に資する道路ネットワークの整備等 724億円

2024年問題 350億円 < 交通ネットワーク(鉄道・港湾)の耐災害性の強化 557億円

2024年問題 350億円 < 国土強靱化に資する道路ネットワークの機能強化に関する対策2075億円

2024年問題 350億円 < 道路インフラの局所的な防災・減災対策等 451億円

2024年問題 350億円 < 海上保安能力の強化等 693億円

率直に言って、350億円が小さいとは言えないですが、他の社会課題(インフレ、エネルギー、国土強靱化等)からすると、とても地味な金額であると感じます。マスメディアに取り上げられているほど、本気で解決しようという政策パッケージには見えず、そのギャップにむしろ違和感を感じます。

悪い言い方かもしれませんが、「2024年問題」は、時の政府の人気取りに利用されている気がしてきます。

もうすこし、この違和感を、検証してみたいと思います。

令和4年度 国土交通省予算(2022年4月~2023年3月)に、2024年問題は認識されていたか?

約2年前にさかのぼります。今年は令和5年度、令和4年は昨年度。

昨年令和4年度と言えば、2024年問題が起き始める日(2024年4月1日)まで、2年のカウントダウンが始まる年。

この当時、国土交通省は『2024年問題』をどの程度重視し、予算立てしていたか?

『2024年』というワードを使っていたのはここだけ。P24。

【物流 DX の推進】
物流業界では、2024 年度からのトラックドライバーへの時間外労働の上限規制適用を控え、担い手不足が今後更に深刻化することが懸念されるほか、カーボンニュートラルへの対応も求められており、物流生産性の向上は喫緊の課題です。こうした課題解決に向けて、令和3年6月に閣議決定した新たな「総合物流施策大綱」も踏まえつつ、物流施設におけるデジタル化・自動化やドローン物流の実用化、物流・商流データ基盤の構築など、物流分野の DX や、その前提となる物流標準化をより一層強力に推進します。

「最重要」という位置づけでは決してありません。60ページ中、本年1ページ、数行。
しかも、「人手不足」という意味では、何もトラックドライバーだけではありません。P27より。

自動車運送事業以外にも、航空、海運、観光業(サービス業)、人手不足は多岐にわたります。

次に、職業運転手の主幹局である令和4年度決定(自動車局)の予算を見てみましょう。

下記をご覧ください。人手不足に対する施策はあります。が、深刻さは感じられず一般論的なレベルで『人手不足』と言っている感じで、『物流クライシス』という位置づけには見えません。金額もこの程度ですし。

「実態把握に92百万くらいかけようかなあ」・・ 的な。

一方、バスドライバー、タクシードライバーの不足問題に対してどういうスタンスなのかというと・・

これまた調査からでした。
つまり、去年はまだ「何が問題なのか」を誰もデータをもって語れない状態だったことがわかります。

まとめますと、2022年夏時点ではトラック行政、バス行政、タクシー行政は、実際どれくらい人手不足になるのか実はよく分からない状態であり、調査しなきゃね・・的な認識だったのだと思います。

予算申請する(施策を打つ)にはエビデンス(人手不足の深刻さレベル、社会影響度)が無さ過ぎたのでしょう。

手元にデータがない状態で、いい加減に大規模な予算や施策を立てられないのは仕方の無いことかもしれません(正しいことかもしれません)。

不足といえば、他業種他職種で言えば、整備士も不足、介護人材も不足、であることがわかります。

 

 

本年令和5年度 国土交通省予算(2023年4月~2024年3月)に、2024年問題はどの程度認識されているか?

約1年前にさかのぼります。

令和5・本年度と言えば、2024年問題が起き始める日(2024年4月1日)までのカウントダウンがとうとう終わる年度。今日時点でもう半年切っています。

さて、R4年12月当時、ちょうど1年前ですよ、国土交通省は『2024年問題』をどの程度重視し、予算立てしていたか?

『2024年』というワードを使っていたのはここだけ。P23。

【物流 DX の推進】
物流業界では、2024 年度からのトラックドライバーへの時間外労働の上限規制適用を控え、担い手不足が今後更に深刻化することが懸念されるほか、カーボンニュートラルへの対応も求められており、物流生産性の向上は喫緊の課題です。こうした課題解決に向けて、令和3年6月に閣議決定された新たな「総合物流施策大綱」も踏まえつつ、物流施設におけるデジタル化・自動化やドローン物流の実用化、物流・商流データ基盤の構築など、物流分野の DXや、その前提となる物流標準化をより一層強力に推進します。

この部分は昨年R4予算書とまったく同じ記載です。

「最重要」という位置づけでは決してありません。
しかも、「人手不足」という意味では、何もトラックドライバーだけではありません。P27より。

さて続いて、R5年、今年の自動車局の予算から。アレ関連は・・・。

 

R4年より、少なくなっています(92百万→87百万)。カウントダウン終わる年なんだけどな・・

因みに、整備業界と比べてみましょう。

むしろ、整備業界の不足問題に、予算が拡充されたようにも見えます(R4二次補正1.5億を差し引いても)。

ちょうど1年前からでしょうか。業界紙から一般紙・マスメディアにおいて「2024年問題」「物流危機」等の特集が増えました。
しかしそれとは反比例で、行政の予算は増えないどころか減っているかのように見えます。
その後、春以降アレの報道がますます多くなるにつれ、違和感がさらに強くなってきました。

そして、今年の8月・・

来年令和6年度 アレ元年の国土交通省予算(2024年4月~2025年3月)に、アレはどう認識されているのか?

令和6年、来年度の概算要求については、下記記事で「違和感」を述べておりますのでご確認ください。

https://transport-safety.jp/archives/17931

 

私見

今回、アレに投下される金額が少ない、少ないと言い過ぎたかもしれませんが、本意はそこではありません。

お客様や緑ナンバー業界のみなさまには、冷や水を浴びせるような言い方で申し訳ないのですが、いち製造業・いち中小企業・いち日本人として、ここ1年のアレに関して、現状の個人的見解はこんな感じでございます。

・2024年問題など、始まっていないし、終わっていない。

・2024年問題は、もともと存在しないし、これからも存在しない。

・存在するのは、人口減少社会そのものであり、17種の産業同士の労働力の奪い合いである。

・民間企業である限り、魅力的な産業と会社だけが労働力確保の確率が高くなる。

・民間企業は、国の労働政策(労働基準法、働き方改革関連法)に従ってきたしこれからも従うだけ。

・健全な民間企業の競争は、ブラック企業が有利になってはならない。

・若年層、壮年層、高齢層、ホワイトな企業を選ぶのが自然・当然。

・国は、特定の産業や民間企業を、助けはしないし、助けることはできない。

・国土交通省は、グローバルアジェンダ(GX)や国民のいのち確保が優先であり、予算もそうなる。

・国土交通省は、2024年問題を行政が解決できるものとは考えていないようだ、予算もそうなる。

・補正予算(2兆)の1.7%(350億)に過ぎないのは、実際打てる手が本当に少ないから。

・エッセンシャルワーカー(医療、ドライバー、建設)の法的猶予措置は終わり、いち産業となる。

・エッセンシャルワーカーなる用語は今後、美化・情緒用語に過ぎず、だまされてはいけない。

・一時的な補助金(利益補填的な)をもらっても、その業界や社会の長期的な趨勢は変わらない。

・補助制度はすべて持続性のある(人口減少社会に耐えうる)デジタルインフラ設備投資であるべき。

・17の産業間の労働力の奪い合いのうち、始まっているのはデジタル人材の奪い合いである

・2024年問題(が仮にあるとして)を解決できるのは、国ではないし、業界団体でもない。

・2024年問題(が仮にあるとして)を解決するのは、個々の民間企業の、個々の経営施策である。

・2024年問題を率直に語る『事業者』(当事者)よりも『2024年問題解決業者』(当社もか)の方が多い(声が大きい)。

 

2024年問題は運輸安全トピックとは若干離れるため、予算ネタ以外では積極的には取り上げず、すこし引いて見ていましたが、上記はここ1年をふりかえっての所感となります。
また、上記は、私の個人的な体験にもとづく時代認識がベースになっていることも付け加えさせていただきます。
 私は、飲酒運転防止機器をやる前は、とある別の産業で、とある技術職についておりました。その仕事が大好きで、誇りをもって仕事をしておりました。
 しかし、その産業や技術は今存在しません。資本主義社会においては、純粋な民間企業同士の技術開発競争があり、場合によっては海外の企業と競争があり、ときには敗れます。個人的に身をもって体験しています。自分が好きだった仕事が無くなるのは悔しいですしさみしいです。

 思いとは別に、特定の産業や技術は無くなったり新しいものに置き換わります。

 企業として敗れるのは経営の問題で仕方が無いのですが、その業界・産業が、国の政策や補助金で知らない間に実力がそぎ落とされると、いざというときに「筋肉」がない状態で競争のスタートラインにたっても戦えないこともあり得ます。

 当社は運輸業界を愛しており、運輸業界のみなさまから収益をえている当社ではあります。が、一方で、お客様というより、同じ日本社会で、未来へ向けて頑張る民間企業「同士・同志」と思っております。
 ですので、時には今回のように若干失礼な物言いになることもありますが、他の産業(『出入り業者』ではなく)からの客観的視点と捉えて頂ければ幸いです。忖度しない、こういうメディアがあっても良いというのが本誌の編集方針でもあります。

 

文責
運輸安全Journal 編集長 杉本哲也(東海電子株式会社CEO)
2023年11月25日