Fact sheet of a drink driver's behaivior on 28th-June 2021~ある飲酒運転者の飲酒行動~
主 文 被告人を懲役14年に処する。
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
(罪となるべき事実)
被告人は、令和3年6月28日午後2時53分頃、千葉市内の高速道路のパーキングエリアにおいて、一時休憩のため停車中に飲んだ酒の影響により、前方注視及び運転操作に支障が生じるおそれがある状態で大型貨物自動車を発進させて運転を再開し、もってアルコールの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転し、よって、同日午後3時23分頃、千葉県八街市内の道路を時速約56キロメートルで進行中、そのアルコールの影響により仮睡状態に陥り、自車を進路左前方に進行させて路外に設置された電柱に自車左前部を衝突させて更に同方向に進行させ、折から進路左前方を対向歩行してきたA(当時8歳)、B(当時7歳)、C(当時8歳)、D(当時7歳)及びE(当時6歳)に自車前部を衝突させて同人らをそれぞれ路上等に転倒させた上、A及びBを自車車底部等でれき過し、よって、Aに脳損傷等の傷害を負わせ、同日午後4時47分頃、同人を前記傷害により死亡させ、Bに脳挫傷等の傷害を負わせ、同日午後5時24分頃、同人を前記傷害に基づく外傷性ショックにより死亡させるとともに、Cに加療期間不詳の頭蓋顔面骨折、脳挫傷、頭蓋底骨折等の傷害を、Dに加療約6か月を要する見込みの右恥坐骨骨折、右脛骨骨折等の傷害を、Eに加療約3か月を要する脳挫傷等の傷害をそれぞれ負わせたものである。
(量刑の理由)
本件は、建築資材等の配送業務に従事する被告人が、飲酒の影響により正常な運 2 転に支障が生じるおそれがある状態でトラックを運転し、その運転中に飲酒の影響で仮睡状態に陥ったまま同車を進行させ、対向歩行してきた下校中の小学生5名に衝突し、2名を死亡させ、3名を負傷させたという危険運転致死傷の事案である。 被告人の運転していたトラックは車両重量約6.4トンの大型貨物自動車であり、他の車両や歩行者に衝突すれば大きな被害が生じる危険性が高い。被告人からは、本件犯行後約1時間39分を経過した時点での呼気検査により呼気1リットル当たり0.15ミリグラムを超える程度のアルコールが検出されており、被告人が自認する運転開始前の飲酒状況(後記)も考慮すると、犯行時にはそれよりも高い濃度のアルコールを身体に保有していたことが推定される。また、本件現場の少し手前から仮睡状態に陥ってハンドルの操作をできないようになり、道路の左端に寄りながら時速約56キロメートルで進行して道路脇の電柱に衝突し、それでも事態をはっきりと認識するには至らず、対向歩行してきた被害者らに次々と衝突するなどしたものである。被告人の運転行為の危険性は、非常に高いものであった。 被害者らは、道路の右端を一列になって歩いていたところに、突然前方から大きなトラックが迫ってきて、逃げることもできなかったのである。本件犯行に遭った際の被害者らの恐怖は計り知れず、それぞれが受けた肉体的、精神的苦痛は大きい。本件犯行により被害者2名は命を奪われ、3名はそれぞれ判示のとおりの重傷を負った。傷害を負った被害者のうち1名は、頭部に極めて重篤な傷害を負わされ、先の見えない治療を続けており、この点は、傷害の程度としては最悪の部類に属するといえる。このように本件犯行により生じた結果は非常に重大である。そして、被害者ら及びその家族の生活は一変し、その悲しみや苦しみは続いており、これからも癒えることがない。各被害者の両親は、いずれも厳しい被害ないし処罰感情を述べているが、それは当然のものである。 そもそも、被告人は、何かがあれば大きな被害を生じさせる危険性が高い大型貨物自動車の職業運転手として、交通法規を遵守し、安全運転を心掛けるべき立場にありながら、飲酒運転によるものではないものの、大型貨物自動車又は中型貨物自 3 動車の運転中に犯した複数の交通違反歴を有し、平成28年には過失運転致傷罪により罰金刑に処せられ、また、平成30年には追突事故を起こし、勤務先内部の検討の結果として、15トントラックを運転しないよう指示され、以後7トントラックを割り当てられるようになったのであるから、自身の運転する自動車の危険性を改めて自覚し、より慎重な運転を心掛けることが求められていたというべきである。それにもかかわらず、被告人は、安全運転を心掛けるどころか、遅くとも令和2年頃以降には、仕事上のストレス等から勤務中に飲酒をして、配送先からトラックを運転して勤務先に戻ったり、勤務先から自身の自動車で帰宅する際に飲酒した上で運転をしたりするようになり、また、トラックを運転して出向いた取引先の従業員から酒臭さを指摘されたり、その話を聞いた勤務先の上司から注意を受けたりしたこともあったのに、自分は事故を起こさないから大丈夫だなどと安易に考え、飲酒運転を続けていたというのである。被告人は、本件当日も、配送先からトラックを運転して勤務先に戻るに当たり、勤務先近くにある小学校の下校時間帯に通学路として利用されている本件現場を通行することになることを分かっていながら、高速道路のパーキングエリアで昼食を摂る際、帰途購入したワンカップの焼酎(220ミリリットルでアルコール20度)を飲み、その直後から運転を開始し、本件犯行に及んでいる。被告人が飲酒運転の危険性を顧みない態度に終始していたことは明らかであって、このような被告人の運転に臨む態度は最悪のものと評価するのが相当であり、強い非難に値するというべきである。 以上のような本件犯行に関わる事情を踏まえて検討すると、被告人の本件運転が非常に高い危険性をはらんでいたこと、運転に臨む態度が最悪で非難の度合いが高いこと、そのような経緯等を背景とした本件犯行により発生した結果が非常に重大であることに照らせば、アルコールの影響による危険運転致死傷の事案である本件については、その犯情評価は非常に悪く、懲役10年を優に超える刑をもって処断することを検討するべきである。
そこで次に、被告人のために酌み得る事情について検討する。被告人は公判で罪 4 を認め、また、被害者やその家族に対し謝罪の言葉を述べ、反省文を作成している。そこに表れた言葉、表現は、謝罪や反省として不十分と受け取られても致し方ないものに終わっているものもあるといえるが、それは、自らしでかした事態や発生させた結果があまりに重大であるため、被告人自身どのように対処してよいのかが分からないためであるとも思われ、本件犯行により生じた事態を被告人なりに受け止めており、反省しようとする態度はうかがわれる。また、被告人の勤務先会社が加入していた対人・対物無制限の任意保険による損害賠償が見込まれるという事情もある。これらは被告人のために酌むべきものとして考慮し得るものである。しかし、前記のような本件犯情の悪質さの程度に照らせば、酌み得る程度は小さいものといわざるを得ない。 そこで、以上の諸事情を併せ考慮し、被告人を主文に掲げたとおりの刑に処することが相当であると判断した。 よって、主文のとおり判決する。
(求刑 懲役15年) (裁判長裁判官 金子大作 裁判官 国分史子 裁判官 飯田悠斗) 以 上
出典 裁判所 判決全文
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/083/091083_hanrei.pdf