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どうする国交省? どうする警察庁? 「検知器義務化、効果ナシ」~ついにアカデミックから不都合な真実の論証が~

先月8月、筑波大学の研究グループから、勇気ある論文が公表されました。

そのタイトルはズバリ、

『乗務前後の酒気帯び確認でトラック運転者の飲酒運転は防げない』

です。

 

「2011年に義務付けられた酒気帯び確認は、飲酒運転を防ぐには十分ではないことが示唆されました」

https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20220823140000.html

勇気あります。言っちゃいましたね。一部のひとは気付いているこの事実を。論文として・・。





国土交通省は、事故防止政策、安全政策をどんどん打ち出していますが、フォローアップ検討会では、このような効果の定量的な検証はあまり見られません。


本来、今回の論文のような検証が、事業用自動車に係る総合的安全対策検討委員会・事業用自動車総合安全プランXXXXフォローアップ会議 で議論されるべきなのかなあと思います。

 

とうとう海外にもこの不都合な真実が・・。


この論文ペーパーは海外の文献誌にも投稿されており、早速、一部海外メディアがとりあげているようです。


https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35965065/

https://studyfinds.org/mandatory-breath-tests-drunk-driving/




どうする 国土交通省?


さすがに、「効果なし」とは言えない立場の国土交通省(事業用自動車に係る総合的安全対策検討委員会)としては・・・。

一応総括としては、「一定の効果」としています。

飲酒運転対策については、これまでも、点呼時におけるアルコール検知器使用の義務付け等の施策により、一定の効果が確認されているが、それ以降も、点呼前に飲酒していたにも関わらず点呼時に適切なアルコールチェックが行われなかった事例や、点呼後の乗務中に飲酒に及ぶ事例が確認されており、確実に飲酒運転を防止する対策を実施する必要がある。

加えて、飲酒運転の背景には、アルコール依存症等との関連も想定されることから、事業者は、運転者に対して、運転者自身の飲酒傾向の自覚を促すような指導監督を行う必要がある。

出典 プラン2025本文より


プラン2025によれば、そろそろ、予定通り、次の施策が出てくるはず・・

施策例
○点呼の正しいタイミングの周知や、アルコール検知器の要件追加による、点呼時のアルコールチェックの強化
○ 運転者に対する、自身の飲酒傾向の自覚を促す指導監督の推進
○ 初任運転者に対する、飲酒傾向の確認や重点的なアルコールチェックによる、飲酒運転の習慣化の防止
○ 事業者の優良取組事例やアルコール依存症に係る周知
○事業用自動車の運転者が運転中に携帯電話等を操作した全ての事案について、監査を実施
○講習・セミナー等において、あおり運転の悪質性・危険性について啓発 等


さて、検知器についていえば、あと3年以内に

アルコール検知器の要件追加による、点呼時のアルコールチェックの強化

が行われることになっています。

アルコール検知器の告示が変わる、ということでしょうか。

 


どうする警察庁?


ここからは、筆者(本誌 杉本哲也)の私見が入ります。

 

なぜ、効果ナシ、と論証されてしまったのか?


大きくは2つあると考えます。わりとカンタンなことです。

1)アルコール検知器の要件に、「電子記録義務」がなかったことで、本当の使用実態を、監査側がつかめない。

2)アルコール検知器を使用していることを証明できるはずの「点呼記録の電子化の義務」がセットになっていない。(手書き記録ほど、あとから作りやすい)


警察庁は、国土交通省のアルコール検知器義務化とほぼ同じ内容にしました。

特に、アルコール検知器の要件。

緑ナンバー業界で、よくて「一定の効果」、上記レポートのように、見方によっては明らかに、「効果ナシ」とされた施策とほぼ同じルールで始まろうとしているのが、白ナンバーアルコール検知器義務化です(当面延期)。


警察庁は、いったん延期にしましたが、義務化の内容は、本当にこれでいいのでしょうか?

今回パブリックコメントでも、義務化の内容を見直すべき、という意見も出ているようです。

 

これだけ白ナンバーアルコールチェック義務化だ、延期だ、と話題になっていますが、なぜ警察庁のアルコール検知器義務化の内容がこのように、国土交通省と同じ内容になってしまったのか、じつのところ、決定経緯も根拠も、誰もわかりません。

おそらく、アルコール検知器の不使用率や、本当の効果を、だれも知らないからではないでしょうか? なぜか? データが無いから。検討会ですら。運輸局が持っている? 持っていません。なぜなら・・

  

緑ナンバーで始まったアルコール検知器義務化は、政策評価がはじめから難しいスキームでした。
はじめから、使用実態があとから検証され得ない「要件」にしてしまったことは、本当に残念です。そして白ナンバーも・・。

 


EBPM、デジタル政策評価について。


現在、IT点呼、遠隔点呼、自動点呼が急ピッチで進んでいます。この3つの「デジタル技術・IT技術をつかった点呼」の良いところは、点呼記録が疑義なく残るところです。もちろん飲酒チェック記録も疑義なく残ります。

IT点呼を適切に実施しているのか、遠隔点呼を適切に実施しているのか、デジタルであればあるほど、運輸局による事後チェックが容易です。実は、リモートでも監査や指導ができるハズです。

今後、政策決定、施策決定にあたっては、あとから証明しやすい、行政コストもかからないデジタルな「義務化」が期待されます。

そうしないと例えば、「IT点呼、遠隔点呼、自動点呼等、点呼規則改正により、無点呼率は下がったのか?」という政策評価を検討会がやるにしても、例えば公共政策研究者が論文を書くにしても、「支局職員が現場にいって点呼記録簿を見る」という地道なフィールドワークしかないという事態に・・・。



ちなみに、なぜ、この論文を、各種業界紙、メディア誌は取り上げてないのですか???

 




(本事記事は、筑波大学 広報室に論文リンクやブログ化の許可を得ています。また、本紙と上記論文執筆者とのあいだに、ビジネス上のいかなる関係もございません)



2022.09.16
運輸安全JOURNAL
Tetsuya Sugimoto