アルコール検知器「入手できない」はフェイクかファクトか? パブコメ終了日、家電量販店のカゴにあるアルコール検知器は何なのか?
安全運転選任事業所のアルコール検知器使用義務についてのお話です。
今年、2月から4月にかけて、アルコール検知器メーカー数社から「受注増と半導体部品入手困難により10月に供給できない」との公表文書が出ていた時期がありました。
当社(東海電子)でも、一部製品(すべての製品ではありません)について、納期回答が1年後という状況がありました(いまも一部あります。お待たせして申し訳ございません)。
その後警察庁は、各方面からの情報をあつめたようでして、ついには「10月1日を延期します」とのパブリックコメント開始に至りました。
しかしながら、はたして本当に、「1個も入手できない」ということは、民間企業による現代の流通市場でありえるでしょうか?
先日7月28日、たまたま、テレワーク用のヘッドセットを買いに、近所の某家電量販店に行きました。
すると、入り口のど真ん前に、このようなカゴが置かれていたのです。
おや? どこもかしこも品薄のハズでは?
さすがに、3ヶ月、4ヶ月たてば変わってきますかねえ、「供給状況」も。
今回はそんな話です。
アルコール検知器使用開始延期のパブリックコメント 提出しましたか?
2022年7月14日 警察庁は、2022年10月から施行予定であった安全運転管理者選任事業所におけるアルコール検知器使用義務を延期することを決め、パブリックコメントを開始しました。
そして今日、8月13日、締め切られました。
延期の理由です。
「最近のアルコール検知器の供給状況等を踏まえ、当分の間、安全運転管理者に対するアルコール検知器の使用義務化に係る規定を適用しないこととすること」
「供給状況」と「当分の間」・・・。
さて、今回の「延期」パブリックコメントには、誰から、どんな意見が出てくるんでしょうかねえ。
「延期をやめるべき」
「数年先へ延ばすべき」
「そもそも義務化をやめるべき」??
「そもそも企業による飲酒運転再発防止なのに、自然災害以外で延期なんてアリ?」
とか? どうでしょうね。結果公表を待ちましょう。
さて、先日、別の記事で、アルコール検知器メーカーが増え、アルコール検知器の業界団体の加入企業も一気に増えた、という記事を書きました。
60社近い企業すべてが製造事業者ではありません。一方、アルコール検知器協議会に加入せずにアルコール検知器を製造販売する企業もいるでしょうから、差し引きしてもやはり30~50社程度のアルコール検知器メーカー、販売流通各社が コメント提出するかもしれません。
(もしアルコール検知器協議会が団体名で出さないということであれば、各社自主投票という方針なのでしょう)
素朴な疑問。
警察庁は、たとえば、個別のアルコール検知器メーカーや販売会社、合計30社から意見が出たとします。
・10社が「ウチはいま供給可能で在庫あがる。延期すべきでない」と言い
・10社が「半年後なら供給可能、2023年4月に再開すべき」と言い
・10社が「めどが立たない。1年以上、いやもっと伸ばすべき」と言い
こんな状況となった場合、どうするのでしょうか?
各社の「刻一刻とかわるビジネス事情」(懐事情?)に対して、何を事実として受け止め、何を根拠として(最大公約数的?)、再開日を決めるのでしょうか。
「供給状況等」結局どうなの? ファクトチェックその1(アルコール検知器協議会会員企業編)
警察庁自身が「供給状況等」を調べる方法はあります。
まずは、アルコール検知器協議会会員の見てみましょう。
7月時点で、55社のようです。
さて、このなかで、アルコール検知器を自社名で製造もしくは自社名で販売している会員企業がどれくらいいるのでしょうか?
筆者独自の分類ですが、非供給企業とは、ソフトウェア企業や部品メーカーであり、自社名で完成品を流通させていない企業、としました。供給企業とは、「自社で製造および販売」「自社で輸入及び販売」等、ビジネスモデルはどうであれ、あきらかに販売供給元とわかる企業を指します。
35社でした。
なるほど。
33万事業所。安全運転管理者選任事業所は33万箇所ですよね。
ということは、各社1万台の供給能力があれば、1万×35=35万事業所。
ぴったり1カ所に1台(1個)は配備されることになりますね!(ただし、1事業所で1台(1個)ではなく、個人配布する場合は違う計算となります)
ちなみに、1万台という数は、当社にとっては工場をいくつ増設しても無理な台数です。ここ最近は大体平均700台/月という程度ですので・・。これはもう量産しているメーカーさんにお任せするしかないですね・・・。
さて次に、供給元として、供給状況について文書やウェブサイトで供給状況について言及している企業の数を調べてみました。言及している、の意味は、特定機種を指定して、「一部在庫切れ」「一部在庫あり」「在庫あります」「新製品発売予定」を公表していること、としました。
おや?
在庫アリ! とか在庫なし! とか、一部アリ! とか一部なし! 欠品です! 等、何らかの情報を公知させている企業の方がずっとすくないですね。
確かによく考えれば、「在庫なし」と言わない限りは、「あるんでしょ」と消費者が思うのは当然で、あえて言わないということなのかもしれません。
ないけどないと言わないのは・・? まあみなさん事情があるのでしょう。
確かに、上場企業であれば、曖昧な情報で株価が動くようなIR・PRをしてはいけないでしょうし、各サプライヤーや卸先への気遣いとか、いろいろあるのかもしれませんね・・。
言うのが良い、言わないのが良い、是非はないと思います。決して公表していない企業を悪いと言っているわけではありません。
警察庁がもしアルコール検知器会員企業を独自調査をする場合、「協議会会員企業のウェブサイトを見てみたが、供給状況品薄なのか品薄じゃないのかよくわからん・・」ということになりそうです。
「供給状況等」結局どうなの? ファクトチェックその2(キーワード検索編)
警察庁はこういうネット調査をするでしょうね。
ズバリ、「アルコール検知器 在庫あり」とか。
ズバリ、「アルコール検知器 在庫なし」とか。
ちょっとひねり、「アルコール検知器 キャンペーン」と検索してみましょう。
「供給状況等」結局どうなの? ファクトチェックその3(大手ECサイト編)
だいたい、こんなところでしょうか。レッツゴー。
例えばアマゾン。
1ページ目:数十機種、すべて在庫あり
2ページ目:数十機種、すべて在庫あり
3ページ目:数十機種、すべて在庫あり
4ページ目:数十機種、すべて在庫あり
5ページ目:数十機種、すべて在庫あり
~
10ページ目:数十機種、すべて在庫あり・・・。
2022年8月13日。
「アルコール検知器が手に入らない」という供給状況ではないですよね。明らかに。
「供給状況等」結局どうなの? ファクトチェックその4(越境EC、海外調達サイト)
本当に手に入れるなら、事業者は本気になって探すべきです。
場合によっては、「世界一のBtoB ECサイト」アリババで探して購入すれば良いのです。
いくらでも在庫はあるようです。
警察庁におかれましては、今般の安全運転管理者選任事業所向けのアルコール検知器について、告示でわざわざ
呼気中のアルコールを検知し、その有無又はその濃度を警告音、警告灯、数値等により示す機能を有する機器
というように、およそアルコール検知器と名乗っているものは、国内ECであろうが、越境ECであろうが、どこからでも広く多く供給されるよう、促したではないですか。
それが功を奏しているのです。
33万事業所がアルコール検知器を入手しやすくするために、あえて性能要件を簡素化したんですよね?
まさかこの期に及んで、中国からECで購入するものは粗悪品だ、とか、ネットで安価で売られているものはダメだとか、根拠のない(事実に基づかない)ことを言って、「まともなものが少ないのだ」とは言わないですよね? (メーカーに失礼ですヨ)
「供給状況等」結局どうなの? ファクトチェックその5(大手家電各社へヒアリング)
冒頭の写真の件です。
ヤマダ、ビックカメラ、ケーズ、エディオン、ヨドバシ、ノジマ、上新、ベスト・・。
各家電量販店では、本部が、各店舗のアルコール検知器の在庫を把握していると思われます。
警察庁は供給状況について
・上流(製造事業者、卸元)
・中流(中間流通)
・下流(小売りリアル店舗、ネット店舗)
ヒアリングを多角的にすべきではなかろうか。
大手家電流通協会なるものが、あるらしい。公式サイトはみつからず、あまり情報がないですが。
https://www.env.go.jp/press/101794.html
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/chikyu_kankyo/ryutsu_wg/pdf/2021_001_10_01.pdf
警察庁は、流通協会へヒアリングをお願いすれば良いのでは? もしくは、個別でも10社程度のヒアリングで済むのではなかろうか。
「供給状況等」、最強かつもっとも重要なファクトチェック
最後に、真面目な話です。
警察庁には独特の、独自の組織力があります。
まさに安全運転管理者選任事業所の届け出を、公安委員会受理しています。
http://www.pref.shizuoka.jp/police/shinse/kanrisha/documents/12-todokedesho.pdf
これは、47都道府県の公安委員会が「33万事業所」のデータベースを持っていることを意味しています。
そして、安全運転管理者向けの法定講習は、受講率は99%とも言われています。
歴史的かつ伝統的に、道路交通法が規定する安全運転管理者向け法定講習は、各都道府県の安全運転管理者協会や交通安全協会が入札で受託している事業です。
法定講習の実施には「郵送による告知と受講管理」も含まれます。
法定講習の実施主体(安全運転管理者協会や交通安全協会)は、毎年、すべての選任事業所の安全運転管理者を会場に集めて一日講習を行っていますので、この場で、アンケートを採ることが可能です。もしくは、郵送やFAXで、アンケートを採ることが可能です。
たった3つの質問で良いと思います。
Q1 あなたの事業所では、義務化前からもともとアルコール検知器を使用していましたか?
Q2 あなたの事業所では、すでに「何らか」のアルコール検知器を配備済みですか?
Q3 あなたの事業所では、アルコール検知器を発注済みで、待ち状態ですか?
この3つの質問を、47都道府県すべての安全運転管理者協会を通じて、すべての事業所に投げかけることにより、供給状況について重要な事実が得られると思います。
そもそも、当社の事業の経験上、義務化前から安全運転管理上アルコール検知器を使用していた企業は一定数いるのです。つまり、33万事業所分あらたに供給する必要が出てきたわけではありません。
加えて、ここ半年でアルコール検知器を入手出来た事業所も多くあるはずです。
加えて、ここ半年で、義務化を知り、慌てて注文を入れた事業所も増えてきたはずです。
このアンケートが、唯一、警察庁自らの組織力で出来るファクトチェックなのではないでしょうか?
各都道府県警および安全運転管理者協会によるアルコール検知器義務化の告知状況
https://transport-safety.jp/archives/tag/%E5%AE%89%E5%85%A8%E9%81%8B%E8%BB%A2%E7%AE%A1%E7%90%86%E8%80%85%E5%88%B6%E5%BA%A6
https://transport-safety.jp/archives/tag/%E5%AE%89%E5%85%A8%E9%81%8B%E8%BB%A2%E7%AE%A1%E7%90%86%E8%80%85%E5%88%B6%E5%BA%A6/page/2
以上のような内容を、本日、パブリックコメントで提出致しました。
2022.08.13
Tetsuya Sugimoto