乗務前自動点呼制度化が遅れているのは、なぜなのか? を議事録から検証してみる。
運行管理高度化ワーキンググループ(旧:運行管理高度化検討会)とは、国土交通省が、交通安全基本計画や事業用自動車総合安全プラン20XX等の大きな方向性を実現するために、自動車運送事業者(バス・タクシー・トラック)がデジタル化時代にどう適応し、事故削減と労働生産性向上をすすめてゆくのか、個別の施策を具体的に仕上げてゆく重要な場です。
「運行管理DX 政策決定会合」とでも言いましょうか。
実際、遠隔点呼、自動点呼(業務後)がここ2年で順調に決まってきました。遠隔点呼についてはさらに、事業者間遠隔点呼(共同点呼の遠隔版)も、「先行」とつきましたが、実質解禁となりました。
ところが、ひとつだけ、もっとも期待されていた「乗務前の自動点呼」だけ、もやもやと遅れています。なぜ?
委員による発言から、その理由を探ってみたいと思います。
議事録によれば・・
以下は、プラン2025開始以降の運行管理高度化の会合の議事録です。令和3年3月から、直近で令和5年8月、あしかけ2年半、合計10回・・・。
自動点呼、どんな論点?
自動点呼関連すると思われるところをピックアップします。
令和3年6月28日 議事録より
○ 健康状態の把握のために、点呼における体温確認のほかに、どのような測定を組み合わせてリスク評価をすべきか、専門家の見地を踏まえ検討する必要がある。
○ 自動点呼について、点呼支援機器に記録された点呼結果の情報を後刻運行管理者がどのように扱ったか実証実験の中で確認しておくと、認定制度の検討の際に参考となる。
令和3年9月28日 議事録より
[乗務後自動点呼の要件とりまとめについて]
○ 条件付き点呼自動化の定義について、必ずしも点呼実施場所に運行管理者の存在を義務付けるものとはしないように検討してほしい。
○ 自動点呼導入による効果について、基本的な考え方で触れてはどうか。
○ 年度末の条件付き乗務後点呼自動化の取りまとめに際し、引き続き乗務後点呼の完全自動化や乗務前点呼の自動化を目指すべく、今後のロードマップを示すことを考えてほしい。
○ 自動点呼について、将来的には機器に学習機能の搭載が必要になってくると思料。
令和3年12月22日 議事録より
[乗務後自動点呼の要件とりまとめについて]
○ 条件付き点呼自動化の定義について、必ずしも点呼実施場所に運行管理者の存在を義務付けるものとはしないように検討してほしい。
○ 自動点呼導入による効果について、基本的な考え方で触れてはどうか。
○ 年度末の条件付き乗務後点呼自動化の取りまとめに際し、引き続き乗務後点呼の完全自動化や乗務前点呼の自動化を目指すべく、今後のロードマップを示すことを考えてほしい。
○ 自動点呼について、将来的には機器に学習機能の搭載が必要になってくると思料。
令和4年3月23日 議事録より
[乗務後自動点呼の最終とりまとめについて]
○ 機器故障に関する要件を含め、高額な機器では事業者の導入も難しくなるため今回提案された要件で一旦進めるのが妥当である。
令和4年6月29日 議事録より
議事録に、乗務前点呼の発言なし
令和4年9月29日 議事録より
[自動点呼について]
〇乗務前自動点呼の導入について、3月の検討会では、今年の 12 月までに調査・実験結果のまとめまで行うこととされたが、1年以上の遅れに加え、結果まとめの時期未定となっている。業界として期待が大きいので、調査・実証実験を迅速に進めてほしい。
〇乗務員の健康状態の把握から調査着手との提案について、乗務後自動点呼や遠隔点呼と同様に、乗務前自動点呼において想定される課題を網羅的に把握した上で着手する項目を決定という手法が、必要かつ近道と思うので、12 月の委員会に課題の全体像と調査対象項目の説明を行っていただきたい
令和4年12月26日 議事録より
令和5年3月23日 議事録より
[自動点呼の実証実験等について]
〇小規模事業者にとって自動点呼を導入することの効果がどの程度あるのかを把握するため、乗務前自動点呼の実証実験を実施する事業者の中に車両台数の少ない事業者を含め、結果を示す際にはドライバー数などの事業者の規模とそれに応じた効果等を示せるようにしてほしい。
〇実証実験の中で、誰がどのように運行可否の判断を行っていくのかについて、しっかりとデータを取り、運行可否判断のあり方について検証を行ってほしい。
〇乗務不可となった場合に運転者が強行して運行開始することを防ぐ検討が必要ではないか。また、点呼の指示や質問事項が毎回同じだと、運転者が慣れてしまうおそれがあるため、対面と同等の緊張感を保つためにも、質問を毎回変えるなどイレギュラーな対応も必要ではないか。
○ヒヤリハットの評価について、通信式ドライブレコーダー等、運行中のヒヤリハットを自動で検出、記憶できる機器を使用している事業者と例えば、某大手物流事業者が開発したシステムを使用する事業者との間で結果に大きな偏りが出た場合、デバイスの精度によるものかどうかが分からない可能性もあるため、システムの統一が望ましいが、サンプルの偏りがないようにするためデータの補正等
を検討する必要がある可能性もある。
令和5年8月29日 議事録より
[業務前自動点呼の実証実験について]
○ 業務前自動点呼の導入について期待する声が多く、できるだけ早い段階で実施できるよう検討を進めてほしい。
○ 血圧や顔の表情等の健康状態に関する情報の測定結果について、統一的な判断基準が現時点で存在しないため、ガイドライン等で定めることが望ましい。
○ 健康状態に関する判断基準については、自動点呼機器(ユニボ等)で取得しているデータの解析や活用について、健康起因事故防止を扱う専門家や医師などの意見を踏まえて、ワーキングを連携して検討を進めてほしい。
○ 機器を通じた確認・指示を十分に把握する前にページ送りをする状態が見られたという点が気になる。本人に飽きさせないような工夫が必要ではないか。
○ 1次期間の結果から2次期間においてもある程度運行管理者が関与することが想定されることから、実証を行うにあたり最低限の条件を示した方が良い
遅れているという認識はあるようだ。
スケジュールに関する発言があります。
○ 年度末の条件付き乗務後点呼自動化の取りまとめに際し、引き続き乗務後点呼の完全自動化や乗務前点呼の自動化を目指すべく、今後のロードマップを示すことを考えてほしい。(令和3年9月)
〇乗務前自動点呼の導入について、3月の検討会では、今年の 12 月までに調査・実験結果のまとめまで行うこととされたが、1年以上の遅れに加え、結果まとめの時期未定となっている。業界として期待が大きいので、調査・実証実験を迅速に進めてほしい。(令和4年9月)
○ 業務前自動点呼の導入について期待する声が多く、できるだけ早い段階で実施できるよう検討を進めてほしい。(令和5年9月)
遅れている、と認めています。
それにしても、実証実験をやっているのに、なぜ? と思います。
みなさんも、実際、不思議ではないですか?
私は不思議です。足かけ2年にわたって実証実験をやったり検討会でほぼ毎回議論しており、かつ、業務後自動点呼が制度化された以上、制度の骨格はもう決まっていて、あとは粛々と・・・・と思ってました。
実証実験を長く続けなければわからない事項があるのか、実証実験事業者が足りないのか。
それとも、「決断」ができないだけ? 反対するひと(勢力)がいる? 論拠やエビデンスが弱すぎる? 今さら?
乗務可否の機械による判断 VS そもそも無点呼
上記議事録発言から、「乗務可否の、とくに、健康や体調を機械にやらせて大丈夫なのか?」 という声があることが分かっています。・・・まさか、いまだにここで戸惑っている?
機械に運転者の健康状態等を踏まえた判断をさせるのは難しい。
それをいっちゃあ おしまいですよね! 運行管理「高度化」や、自動点呼(機械点呼)の制度化を掲げた時点で、ここが重要な論点であることはわかってましたよね?
いまの時代のデジタルテクノロジーを駆使して乗り越えてゆく前提で「自動点呼」を言い出しているはず。バイタルデータの取得技術も年々高度化しています。そう、「高度化」検討会なのですから、高度化に戸惑ったら おしまいだと思うんです。
ひとつ視点を変えてみましょう。
点呼という制度の趣旨に立ち返ります。
まず点呼とは、ロボであろうが人であろうが、運転行為直前のドライバーの状態を事業者が確認する安全確保のためのシステムです。
現実をみつめるならば、点呼を出来ていない事業者が一定数いることが行政処分の結果からわかっています。残念ながら、全国で、毎月。
https://transport-safety.jp/archives/category/public-comment/audit-analysis
この事実から、
論点A「点呼を経ない運転開始」 VS 「点呼(ひともしくはロボ)を経て運転開始」
論点B「点呼を経て運転開始(ひと)VS 点呼を経て運転開始(ロボ)」
論点A→論点B 点呼にまつわる総論のうち、どの各論を議論しているのか、まずこの2つの論点がそもそも存在する、と考えます。点呼の高度化はプラン2025開始時に方針づけされたわけですが、この政策はもともと「事業用自動車の事故削減」を目的としているのです。
運行管理高度化がテーマだからといって、そもそも安全確保システムである点呼の存在意義を無視するかのように、「一発の点呼の正確性(人よりロボが精緻か?とか)」に議論をフォーカスしているように思えて、私は違和感を感じます。
高度化の目的A) 事故削減・安全性向上
高度化の目的B) 生産性向上
自動点呼を例にすれば、「自動点呼の普及による、業界の総点呼数増加(点呼遵法率100%)の量的貢献度」という論点が、まったくといっていいほど机上にあげられていないと感じます。点呼実施数にかかわる定量分析が一度もされずにきたから、こうなる(意図的に忌避した健全な論点がないことで、議論がかみ合わない)のだと思う。
わたしたち点呼システム販売事業者が日々に目にする耳にする、
「出来てない点呼があり、違法なので解消される(安全)✕ロボにすると人手が少なく済む(生産性)」
事業者のみなさんが喜んでいるのは、この2つのかけ算が成立するからです。
委員会では、「点呼に漏れがあることが前提」という議論はしずらいのかもしれませんが、現実がそうなのです。(行政処分の結果をみれば明らか)
委員会の規約
第2条 ワーキングは、自動車運送事業における輸送の安全確保の根幹を成す運行管理について、安全性の向上、労働環境の改善、人手不足の解消等に向けて、専門的見地から情報通信技術(ICT)の活用による運行管理の高度化に関する制度設計に係る検討を行うことを目的とする。
「ひとがやるほうが安全かロボがやるほうが安全か」ではない。それは、カッコつけた不毛な二元論であって、
「やれていないこと(点呼未実施数)を、ロボが代替することでやれるようにする」。これが「安全性の向上」の議論だと思う。
ガイドラインをつくる作業が遅れている?
○ 健康状態の把握のために、点呼における体温確認のほかに、どのような測定を組み合わせてリスク評価をすべきか、専門家の見地を踏まえ検討する必要がある。(令和3年6月28日)
○ 血圧や顔の表情等の健康状態に関する情報の測定結果について、統一的な判断基準が現時点で存在しないため、ガイドライン等で定めることが望ましい。(令和5年8月29日)
○ 健康状態に関する判断基準については、自動点呼機器(ユニボ等)で取得しているデータの解析や活用について、健康起因事故防止を扱う専門家や医師などの意見を踏まえて、ワーキングを連携して検討を進めてほしい。(令和5年8月29日)
おそらくですが、専門家WGの意見を聞く→ガイドラインの作成、という作業が遅れているのだと私には見えます。
なぜ遅れているのか?
確かにここを決めるのは重責です。点呼時の運転可否バイタルデータや機器を定義することになる、ある意味これは、安全管理の歴史上、後戻りできない重要な決定かもしれません。
でも、それをやるのが検討会の場なのですから、勇気をもって決めて頂きたいです。
国土交通省「健康管理マニュアル」と、指導監督告示「健康管理の重要性」
10年以上前、健康起因事故が増えつつあった頃、国土交通省は『事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル』をつくりました。このなかでは、ドライバーの健康診断や就業上の措置を含め、日常的な健康状態の把握の具体的な方法が示されています。
この内容に書かれている「健康状態の把握」を前提にすれば、「自動点呼」における、自動点呼の瞬間における健康状態の判断の精度がどうあるべきか、より冷静に見ることができるのではなかろうか?
つまり、日常的な健康状態の把握のレベル次第で、「その時の一発の点呼(ロボ判断)」の正確性のあり方、の議論は変わってくるのでないかと。
また、指導監督の告示に従うならば、ドライバーに「健康管理の重要性を理解させる」という項目がそもそもありますので、これも、運行管理者とドライバー相互の日常的な健康状態の把握(情報共有)の度合い、健康管理風土のレベルをはかるものであり、運転直前の健康状態のジャッジにつながる重要な動線になっているのではないでしょうか。
なぜ、血圧計ガイドラインの話題が議事録には出てこないのだろう?
トラック業界に関していえば、すでに点呼におけるバイタルデータ活用機器としては血圧計が主流です。
トラック業界では、血圧計を普通に推奨しています。(助成制度もあります)
このパンフレットには、『運行管理者から「測定結果の解釈・判断がわからない」「医療行為や運行可否の線引きが難しい」との声があがっていた』と記載されています。
このパンフレットには、さらにこう記載されています。
この「血圧計活用のポイント」は、現在の医学の知見に基づいて作成したものです。
素直によめば、これは トラック業界(全日本トラック協会が発出した)による「点呼時にドライバーの運行可否を決定するための、機器を使った体調判断ガイドライン」ですし、専門家の意見がすでに反映されたものです。
タクシー業界やバス業界が、もし、この血圧計活用ガイドラインの数字に疑義があると考えるならば、そのような議論をすればいいわけですし、健全な議論を経て、このガイドラインを「業界統一の基準」に改変アップデートし、乗務前自動点呼にも適用させればいいのでは?
なぜ、血圧計ガイドラインの話題が議事録には出てこないのだろう?
委員の方々、参加者の方々を見ると、この有名な「血圧計活用ガイドライン」を知らないとは思えないです。それとも、議事録には出ないけど実際は議論しているのかもしれませんね。
どうなんですか?
全日本トラック協会の「血圧計活用ガイドライン」は、統一的な判断基準、もしくはガイドラインとして、どこか不適切なところはありますか?
まとめ。
私見ですが、遅れている理由はひとつだと思います。
「運転可否の判断基準となる疲労疾病の度合いを総合的にあらわす機器を決めることができていない。決めるための専門家グループを確定しきれていない」
このこと以外は、すでに業務後自動点呼や遠隔点呼の制度化でカタがついている要素だと思います。おおきな論点はないと見えます。
確かに、重責です。確かに、「血圧140未満」というラインは現実的ではないという意見が多いことは確実に予想されます。
So what?